福井地方裁判所 平成5年(わ)159号 判決 1994年2月04日
本店所在地
福井県今立郡今立町横住二八号三番地
若泉漆器株式会社
(右代表者代表取締役 若泉繁則)
本籍
福井県今立郡今立町横住第二八号三番地
住居
福井県今立郡今立町粟田部中央二丁目二〇八番地
会社役員
若泉繁則
昭和一三年八月二一日生
主文
被告人若泉漆器株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人若泉繁則を懲役一年に処する。
被告人若泉繁則に対し、この裁判確定の日から三年間刑の執行を猶予する。
理由
(犯罪事実)
被告人若泉漆器株式会社(以下「被告会社」という。)は、肩書地に本店を置き、漆器の製造及び販売等を目的とする資本金八〇〇万円の株式会社であり、被告人若泉繁則(以下「被告人」という。)は、被告会社の代表取締役としてその業務全般を統括していた者である。被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外して簿外預金を蓄積する等の方法により所得の一部を秘匿した上、昭和六三年四月一日から平成元年三月三一日までの事業年度における被告会社の実際の所得金額が五億一八五一万八九八一円であったにもかかわらず平成元年五月三一日、福井県武生市中央一丁目六番一二号所在の所轄武生税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億二八九四万五八一二円であり、これに対する法人税額が一億三三五四万四三〇〇円である旨の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により被告会社の右事業年度における正規の法人税額二億一五五二万九六〇〇円と右申告税額との差額八一九八万五三〇〇円を免れたものである。
(証拠)
一 被告人の
<1> 公判供述
<2> 検察官調書四通
一 若泉多津子の検察官調書
一 捜査報告書三通
一 査察官調書二四通
一 証明書
一 登記簿謄本
(法令の適用)
罰条 被告会社につき、法人税法一六四条一項、一五九条一項
被告人につき、同法一五九条一項
刑種の選択 被告人につき、懲役刑を選択
宣告刑の決定 被告会社につき、情状により法人税法一五九条二項
刑の執行猶予 被告人につき、刑法二五条一項
(量刑の理由)
本件は、消費税導入を前にして駆け込み需要が見込まれ、売上が伸びることが予想されたことから、この機会を利用していわゆる裏金をつくることなどを考えた被告人が、売上を除外する方法で被告会社の利益を過少に申告して法人税を免れることを計画し、実行した事件である。逋脱税額は高額であって悪質である。その動機等、被告人の公私を混同した経営態度には非難されるべき点が多く、被告会社の組織上の問題も指摘される。また租税犯罪は伝播性が強く、他の逋脱者を誘発するおそれがあることなど、その社会的影響も無視できない。被告人及び公的存在としての被告会社の刑事責任は重い。
しかしながら、他面、被告会社は、その後修正申告を行って本税及び付帯税の全部を納付していること、脱税も本件事業年度だけで継続的に行われていたものではないこと、そして本件に対する反省から顧問税理士に経理事務の改善方策の立案を依頼し、現にその意見を入れて不祥事の再発防止を組織的な面から具体化していること、また被告人の、経営者として至らなかったことについての反省は顕著であって、再犯のおそれは乏しいものと考えられること、同種前科は全くないこと等それぞれに有利な情状が存する。
そこで、以上の諸事情を総合考慮し、被告会社及び被告人に対し、それぞれ主文のとおり刑を定めるとともに、被告人については社会内にあってより反省を深めさせることが相当と認め、刑の執行を猶予することとした。
(出席した検察官中村周司、弁護人北川恒久)
(裁判官 大西良孝)